ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化
文化の違いを比べる切り口はいくつもありますが今日は「ハイコンテクストとローコンテクスト」の違いをベースに取り上げます。
「コンテクスト」という言葉は元々、前後の文脈という意味です。文化の違いの話をするここでは「共有している情報量」としておきます。日本はハイコンテクスト文化圏とされています。共有している情報力が多いので、わざわざ口に出して言わなくても「わかるでしょ?」「察してよ」と話し手が言わなかったことは聞き手が想像で補う、「あうんの呼吸」はすばらしい!という感覚が普通です。
話の内容が相手に伝わるかどうかは「聞き手の責任」です。
それができないと「空気が読めない」「察しが悪い」「気が利かないヤツ」とそしられることもあります。このようなハイコンテクストの文化圏は日本の他に中国、韓国、インドネシア、サウジアラビアなどがあります。
一方でローコンテクストの文化圏では「相手に伝えるのは話し手の責任」なので細部までハッキリ言う、全部言葉にして伝える。それに対して聞き手は「よくわかった」「私はこう思う」と言葉に出して反応します。
どんな国がローコンテクストの文化圏かというとアメリカ、オーストラリア、カナダ、ドイツ、イギリス、デンマークなどです(以上は『異文化理解』エリン・メイヤー著、英治出版、2015 p.61の図から抜粋)
余談になりますが、私たちが英語で仕事をする相手は少し前までは欧米中心でローコンテクストの国がメインでした。最近はアジアパシフィック(以下APAC)の国々と英語でのやり取りが増えていますので。英語イコール、ハイコンテクストの文化圏というのはやや変わってきたかもしれません。
大雑把にいうと歴史が長く、民族・人種数の少ない国はハイコンテクストになりがちです。
歴史が長く続いていて共有している情報やモノが多いからでしょう。結果的に言葉に出さずともお互いに察し合う、想像し合うやり取り委なりがちです。
逆に歴史が浅い国、統合・分裂を繰り返した国々は歴史や文化に関する共有物が少なくなりがちなのでローコンテクスト文化になります。言葉で伝えないとお互いの常識が違うので、誤解を避けるためになんでも言葉にして伝えます。
会議での振舞いかたの違い:英語版と日本語版
英語を共通語として会議をしていると、会議中にどんな行動を取るかハイコンテクストか、ローコンテクストかの影響がみられます。
日本人だけの会議では自分から発言したり、質問する人はあまりいない傾向があります。とくに今のご時世、オンラインの会議では
一人一人指名しないと自分から手をあげてマイクをオンにして発言する人は珍しい。質問をすると「話し手の説明が分かりにくい」と言っているようで質問しにくい、とか、会議を中断させては申し訳ない、とか、自分だけ分かってないことがみんなにバレたら恥ずかしいなど様々な理由があるようです。
一方で参加者にローコンテクスト文化圏の人が多く、英語で行う会議ではだれかが話している途中でも質問が出たり、自分の意見を言い出す人がいるのは珍しくありません。発言者が途中で遮られて
Let me finish!「最後まで言わせて」
というのを聞いたことがあります。
さらに話を終えた人は内容が聞き手に伝わったかどうか確認をします。伝えるのは話し手の責任だからです。
Any questions? 何か質問はありますか?
だから話し手が経営トップの人であっても質問をすることは全く失礼に当たりません。むしろ内容が伝わったかどうかの目安のひとつとして歓迎されるでしょう。逆になにも質問が出ず、感想も出ないと「反応がない」「関心を持ってもらえなかった」とがっかりするかもしれません。
英語の会議に出席したときに気を付けたいこと
英語と日本語の会議に前出のような大きな違いがあるので、もし英語が堪能で話す・聞くに不自由がなくても、参加する際に気を付けないといけないことがありそうです。日本語の会議の時と同じようなつもりで参加して、自分から意見も言わず、質問もせず、感想も言わないとどう思われるか?ということです。
最悪、「何も考えていない?」「自分の意見がない?」「結論を出すために積極的に参加していない?」と誤解されるかもしれません。本当は自分から質問したり、意見を積極的に出すという習慣がないだけのことなのでとても惜しいです。
さらに何か言うべきことがある場合は自分から積極的に意見を言い、提案をしたいものです。司会者が「〇〇さんは何かご意見がありますか?」と一人一人マイクを向けてくれることはほとんどないからです。
ローコンテクスト文化圏では何か言いたいことがある人は自分から言葉にして伝えるのが当たり前だからです。ローコンテクスト文化は「沈黙は金」が通じない世界です。
ローコンテクストに慣れてしまった私の失敗
私は英語系以外の活動でZoomのオンラインワークショップをすることがあります。何カ月か前に私が司会をした時のこと。
ひとしきり発表者の発言が終わった後で「それでは質疑応答に入りましょう」と参加者に呼び掛けたところ、積極的な方が一人いくつかの質問をされた他には質問が出ることもなく、皆さん黙ってこちらを見ているだけでした。
「他の方、ご質問はありませんか?」としばらく待っても何も出なかったので、その回はそこでお開きとしたのですが、次の日になってビックリする出来事が。
参加者からの事後アンケートに「もっと質疑応答の時間を取って欲しかった」という一言がありました。私以外の2人の企画者と話し合ったところ「自分から手をあげる人は少ないから、司会者の方から一人一人にマイクを向ければよかったのかもね」という意見が出ました。どうやら、私はローコンテクスト文化の会議に慣れ切っていたようです。私にはそういう「察する習慣」が抜け落ちているのでよい勉強になりました。
もちろんこの一件はハイコンテクスト、ローコンテクスト文化の違いだけでなく近年話題になっている「心理的安全性」、つまり何を言っても攻撃されない雰囲気づくりの話も関連しているそうですが、それはまたの機会に。